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今回の大会も正にその状況に当たるらしく、本来ならば、休暇日の時点でロアに報告しなくてはならなかったが、それよりも先にロアが発熱した為に、報告が遅くなってしまった武道大会出場者についての件。
「―で、実はレティス様やセキル様からも、大会出場についての打診……と言うか、確認があった」
「大兄君と………セキル?」
前聖司官として、時にロアの代理も勤めるレティスからの打診は理解できたのだが、現在は中央組織を総括する熾天の熾天使長補佐であるロアの弟、セキルからの打診が理解できず、ロアは不審げな呟きを漏らしてしまう。
「俺が大会に出場するなら、セキル様が大会出場を取り止め、俺の代わりにロアの護衛に付くそうだ」
「あいつは………、」
クロアからの説明にロアは呆れた呟きを溢し、軽く頭を抱えた。
ロアの弟、セキル・A・セインは、ロアよりも七つ年下であり、肩より少し長めの柔らかな明るい金の髪に、澄みきった蒼天のような青水晶の瞳をしており。
ロアに良く似た面差しでありながら男性的な印象の方が強い、明るく朗らかで柔らかな物腰の美丈夫の青年だった。
聖殿に隔離され育てられたロアとは違い、物心付く頃には聖殿、聖域の外に出る事を許され。将来は聖主となるロアを支える為に次期熾天使長として、中央組織筆頭、熾天使長になる為、僅か、九才で現熾天使長を務める従兄の親元、聖主の実兄である叔父の養子に出された。
しかし、だからと言って、ロアとの兄弟関係が悪くなる訳でもなく。寧ろ、兄を支える為に早く熾天使長に成りたいと、自ら養子に出ることを望んでいたセキルは、養子に出た後に叔父の元で出会った天族の姫と既に婚姻し、愛妻家として有名でありながら、同時に兄、ロアに対する過保護振りでも有名だった。
「現聖主の第2子が公の場で兄の護衛に付いてどうする……」
ロア自身も弟、セキルに対してだけは甘いのだが、
「セキルには私からキツく言っておく。だから、お前はセキルの申し出を気にするな」
今回の武道大会のような状況ならば、クロアの出場をロアが望むと予測し、気を遣ったセキルからの申し出だったが、クロアの想いを優先するロアに、クロアはつい、嬉しさの滲む笑顔を浮かべてしまう。
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