†十六夜†

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しかし、実際には話し合いの場にクロアがロアの代理として参加し、三時間から四時間の不在と云うのは、特に珍しい事でもなく。 寧ろ、クロアが不在と云う現在の状況に、ロアがクロアの帰室を待ち侘び、もどかしさを感じている事の方が珍しかった。 「…………………ハァ………」 雨粒に洗われる窓から雨に濡れる中庭を見詰めたまま、ロアの唇から何度目かの溜め息が零れる。 クロアが傍に居ない現在の状況。 特に珍しくもない筈のそれに、ロアがクロアの存在を気掛かりにして耐えられなくなって居るのは、偏(ヒトエ)に数日前にロアとクロアの間で起きた、とある細やかな問題が原因だった。 喧嘩と、云う程の事でもないのだが…、ロアの視線が無意識に寝室の隣にある、クロアの私室として使われている側近控え室のある壁へと向けられる。 「……側近……」 ポツリとロアの唇から零れる、雨音に紛れる声量での呟き。 同時に浮かぶ、数日前のクロアとのやり取り。 ―「あのな……、俺はお前の側近なんだ」― クロアの部屋の寝台の上で、就寝までの時刻を使い翌日に必要な書類等を膝の上に広げ、傍らに座るクロアに軽く凭れ掛かった状態で確認していたロアへ、クロアは酷くもどかしげな口調で今更な事を告げて来た。 クロアの発言の元となった切っ掛けは、三年に一度、三日間の日程で開かれる武道大会への出場をロアが書類を確認しながら何気無くクロアに持ち掛けた事。 過去に一度だけ、ロアが独断でクロアの大会出場を勝手に決めてしまった事もあり、今回はクロアの同意を求めたロアだったが、 「お前が私の側近である事は分かっている」 「なら、」 「だが、私は恋人としてお前の活躍を観てみたい」 残念ながら、ロアがクロアの大会出場を勝手に決めてしまった年は、大会開催中に発生した事件が原因でクロアを含む数名の出場が叶わず。クロアの言葉に対するロアからの反論。 途端にクロアは大きく溜め息を吐き、 「……ハァ…………だからな、大会当日はお前の護衛に付くのが俺の役目で務めだ」 どこか呆れた様子で、やはり、ロアも理解している今更な内容で、クロアは大会出場に否定的な意志を告げて来た。
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