†宵月夜†

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爽やかに晴れ渡る空の下。 美しい花々が咲き誇り風に揺れ、鮮やかな緑の樹々が悠々と枝葉を伸ばす神殿の庭園。 本殿から内殿を繋ぐ吹き抜けの廊下の間に広がる神殿組織に勤める者達の憩いの場でもあるその場所で、 「ッ!!こら、待て!毛玉!」 「キャン!!キャン!!」 ロアの足許から元気に駆け出す聖獣の子供の姿に、慌てた驚きを含むロアの呆れた呼び声が上がった。 公務が休憩となる午前と午後の狭間の時間。 「全く…、私は走れんのだぞ」 あっと言う間に枝葉の生い茂る低木の根元を擦り抜け、視界から姿を消した聖獣の子供に、ロアは溜め息混じりの呟きを溢しながら、ゆっくりと歩いて聖獣の子供の後を追う。 ロアが聖獣の子供を保護してから既に約二週間。 直ぐに聖域の森に連れ帰る予定が、ロアが二日間も寝込んでしまった為に公務が立て込んでしまい叶わず、漸く、明日の休暇日に聖域へ連れ帰る予定が立っていた。 その為、保護していた二週間の間に、すっかり聖獣の子供の遊び場、兼、散歩道となった神殿の庭園で、ロアは一人、最後の聖獣の子供の散歩に付き添っていた。 聖獣の子供を保護した最初の頃には、クロアだけでなく、ロアの弟、セキルやロアの直属の部下、フィリル・N・リレリアからも、何故か微妙な反応をされた“毛玉”と云う呼び方も、 ―「あの……、見た目は確かに毛玉のようですが、もっと違った、他の呼び方にしませんか?兄上」― ロアの熱が下がり、翌日から公務に復帰したその日。 業務を開始する前の早朝の時間帯に、中央組織からロアの様子を訪ねて来たセキルは、聖司官執室で聖獣の子供を見せられ、“毛玉”と呼ぶロアの一言に頭を抱えてしまい。クロアでは、はっきりと指摘する事の出来なかった聖獣の子供の呼び方を指摘していた。 ―「他の…?呼び方か?」― ―「はい、他の、」― ロアもセキルに指摘されると、両手で抱えていた聖獣の子供を無表情に見詰め、 ―「ならば……、綿毛?」― ―「あの、そうではなく、」― ―「???………綿…埃?」― ―「ッ!?!?ですから……ッ!!」― ―「他に何がある。この見た目なら毛玉が一番しっくりくるだろうが、」― ―「キャン!!」― 毛玉と云うロアの言葉に反応する聖獣の子供。 ―「………………………」― ―「………………………」― ―「………………………」― ロアとセキル、二人の間に落ちる沈黙。
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