†十六夜†

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その後は、ロアが半ば無理矢理にクロアの寝台で共に寝た為に、翌朝からも普段と変わらない二人だったが、ロアの胸中にはあの日以来、何故か釈然としない思いが蟠(ワダカマ)っていた。 「公の場で側近ではない、恋人のお前を求めては駄目なのか……?」 クロアの居ない傍らに向けて、問い掛けの口調でロアは切なく呟く。 公の場ではロアの恋人であるよりも、側近である事を優先するクロア。 確かに主従関係でありながら恋人同士でもある自分達には、二人の関係を周囲に認めさせ、曖昧になりがちな公私を区別する為にも、公の場では恋人である状況より主従の関係を優先させなければならなかったが、 『私はお前の言葉に従って、外ではお前への口付けさえ控えている』 クロアに説得されるまで、クロアとの関係を隠そうとしなかったロアからすれば、二人の関係を周囲に認めさせる必要性が、クロアの危惧する次期聖主であるロアに対する批判に繋がるほど重要とも思えず、クロアの拘りが些か厳し過ぎるように感じていた。 そして、当然の事ながら、武道大会のような大きな政と成れば、大会での騒ぎや一般の者達に紛れ、不穏な行動や計画を実行する者達も増え、ロアに対する危険が増える。 その事が大会当日の期間中にクロアがロアの側近として傍に居る事に拘る理由である事もロアは理解していたが、だからこそ、その期間中の全ての警備体制が普段よりも格段に厳しく厳重になっていた。 それでも、以前、ある事情から武道大会の開催中に命を狙われた事があるロア。 その時もロアはクロア達に護られ、聖界の政や聖主の存在等に批判的な反逆者から命を狙われ、暗殺の標的にされるなどロアにとっては特別な問題でもなく、普段と何も変わらない日常の中で突発的に起きた事件の一つに過ぎなかった。 だからと云って、ロアが危険の可能性を軽んじて自らの警戒を怠る訳でもなく、寧ろ、護られなければ成らない自分の立場を誰よりも一番よく理解し、慎重であり、安全が確立されている場であっても常にクロアを伴い、滅多に独りで行動する事のないロアだった。
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