†十六夜†

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そうして、聴覚を優しく撫でる雨音に耳を傾け、再び、中庭へとロアが視線を向けた時、 「?」 『今のは………、』 ロアの視界の片隅を走った何かの影。 『いや、まさか…………?』 ロアが住居としている為に、第6階層の中でも特に警備が厳重で厳しい、神殿奥離宮、聖司官専用室のある敷地。 更にはクロアが長時間不在になる時は、クロアの守護結界が張り巡らせてあるため、侵入者などあり得なかったが……、 その中庭を過った影の存在をよく確認しようと、ロアは雨に濡れた窓へ身を近付けようとしてソファーの上に乗り上がろうとし、膝の上に広げていた本が、ばさりと床に落ちてしまう。 だが、ロアは床に落としてしまった本にも全く感心を向けず、暫し無言で中庭を注視し続けると、 「………やっぱり……」 ポツリと小さな確信を呟き、ソファーを降り、クロアへの伝言を残す事も忘れて、そのまま雨の降り頻る中庭へと脚を向けてしまうのだった。
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