†十六夜†

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クロアが漸く話し合いを終えて、ロアの待つ聖司官専用室に帰室した時、そこにはクロアを待っている筈のロアの姿がなかった。 「ッ!?……ロア様!?」 クロアが話し合いの場に向かう時まで、寝室の窓辺に寄せられたソファーに座り、読書をしていたロア。 無人の室内に、床に落とされたままの本。 クロアへの伝言もなく、整理整頓に於いては几帳面なロアが床に落ちた本をそのままに不在となっている状況。 まるで何者かに浚われた後のような光景にクロアは息を詰め、蒼褪める。 だが、急いで寝室内の異常を確認しながら、 『結界を出た様子はない』 「ロア様ッ!?」 聖司官専用室の敷地を覆うクロアの守護結界内からロアが出た様子も、何者かが聖司官専用室の警備を掻い潜り、ロアに不信を懐かせずに連れ出す可能性も、何より、クロアの守護結界が維持され、何者かに一部を破り侵入された痕跡がない事から、先ずは室内の何処かにロアが居る可能性を優先させ、クロアは素早く、室内にある各部屋を確認して廻った。 「ロア様ッ!?……ッ…ロアッ!?」 『…居ない!!』 寝室から居間、クロアの私室、書斎に衣装部屋、脱衣の間と沐浴の場に雑用の作業部屋。聖司官専用室にある全ての部屋に施設を廻り、影も形も見当たらないロアの姿に、最悪を予感する焦燥が生まれクロアを苛む。 「何処に……ッ…何があったッ!?」 『ロアッ!!』 ロアの行方を捜しながら、自分自身を叱責する独白と、ロアを恋人として呼び求める焦りの声がクロアの胸中で上がる。 同時に、 『あの時、中座してでも帰って居れば……ッ』 ―『早く………、帰って来い………』― 後悔の念と共にクロアの脳裏に過る、ロアがクロアを呼び求める声。 話し合いの最中に聴こえて来た、酷く物悲し気で寂し気なクロアの存在を求めるロアの心と感情。 恋人として口付けなどを交わし、互い体の一部を取り込んでいる為に伝わる共感、共鳴に近いモノ。 意識を集中し相手の気配を辿る事が出来れば、居場所を知る事も出来るそれ。
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