†十六夜†

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クロアはロアの声が寂しさからクロアを呼び求めるだけだった為に、特に緊急性も感じず、話し合いの場に残り続けていたのだが、 『ロアッ!!何処だ!?』 ロアの行方を掴む為に、意識を集中し寝室内に残る微かなロアの気配を辿り、行き先を探ると、 「……外かッ!?」 雨の降り頻る中庭にロアの気配がある事を掴んだ。 『何故、外に……ッ…』 いくら、雨粒の小さい小雨と云っても、理由もなく外に出るには向かない天候。 クロアはロアの後を追うために急いで寝室から中庭に出て行こうとするが、それよりも一足早く、カタリと寝室から中庭に出入りする硝子戸が外から開けられ、 「ロアッ!?」 「クロア、拭くものを…、」 頭の天辺から足許まで全身、ずぶ濡れで、転んだのか泥と草に汚れた姿のロアが、雨に濡れた前髪を片手で掻き上げながらクロアの目の前に顕れた。 「直ぐにッ!!」 ロアの言葉に素早く反応するクロア。 一体、何があったのか。泥と草に汚れ、僅かに離れた位置にいるクロアから見ても、体の芯まで冷えきっている事が分かる蒼白なロアの顔色。 クロアは直ぐ様、寝室内に置いてあるチェストから大きめのタオルを取り出すと、ロアの元まで駆け戻り、先ずは頭から拭いて行こうとして、 「違う」 「は?」 「私ではない」 淡々とした口調と無関心な眼差しに遮られ、 「拭くのはこれだ」 クロアの目の前に差し出される、ロアの両手に掴まれた泥塗れの、 「これは………?」 「キャンッ!!」 クロアの呟きに重なる、甲高い鳴き声。 小さな体に白い筈の長い体毛が泥水を吸って萎(シボ)んでいるようにも見えるが、濡れた体毛に埋もれた垂れた耳と小さな四足。多分、肉球らしきモノに左右に振られ泥水を跳ばしている、恐らく尻尾と思しきモノ。クロアを見詰める翡翠色の円(ツブ)らな瞳。 ロアの事だけに意識が集中していた為に、始めからロアの片腕に抱かれていた事にクロアは全く気付かなかったが、今はロアの両手の中に居る、その生き物の正体は、 「仔…犬……?」 「聖獣の仔だ。馬鹿者」 「キャンッ!」 どこからどう聴いても仔犬の鳴き声。 思いもよらない珍客の存在にクロアの唖然とした呟きが溢れ、呆れたロアの訂正が上がるのだった。
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