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その真剣な眼差しを見て確信する。
先生も、采女と同じように最悪の事態を想定しているんだって。
机の下の拳をぎゅっと握りしめた。
「絶対………ひとりで動くな」
「………はい」
「ん」
熱気をはらんだ生ぬるい風が、
窓から遠慮がちに流れてきた。
先生はその風を味わうように
窓へと視線を動かして。
「元気………してた?」
やっと聞き取れるほどの声で、
そう呟いた。
「………はい」
「そ。じゃあヨカッタ」
夏の夕方の匂いのせいなのかーーー
切ない空気に胸が苦しい。
「何かあったら、いつでも連絡してきなサイ」
「………」
あの日以来、先生を諦めようと必死に距離を取ってきた。
苦いモヤに心が包まれ、素直に返事ができない。
「………連絡ナイのが、一番コタエル」
揺らぎながらこぼれた言葉に、
ぎゅうっと体全体が絞られているみたいに痛い。
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