イルカと鮫とティッシュ

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 いらなくなったものを捨てることにした。きっかけなんてない。そろそろ部屋の模様替えでもしようか。そんな考えが浮かんだだけだ。  何年も使ってない携帯ゲーム機。かばん。人形は今年小学二年生になる従姉妹にでもあげるとしよう。  部屋の掃除は記憶を掘り返す作業でもあると思うのだ。懐かしい物を見て、当時の自分を振り返る。それにまつわるエピソードを思い出す。  過去を振り返るうちに、現在の自分は意識から切り離される。記憶のフィルムが一連の映像を映し終えた瞬間、一気に現実に引き戻されるのが分かった。  これを繰り返していくと次第に部屋が綺麗になっていき、心の中に寂しさと暖かさがいっぱい溜まっていくのだった。  ベッドの掃除に取りかかった。ベッドの上にはぬいぐるみが八個ある。遊園地だったり旅行先だったり。そういった場所で親に買ってもらったものだ。  ぬいぐるみなんて子供っぽいかもしれない。捨てよう。  まず手に取ったのはサメのぬいぐるみだった。柔らかい。逆三角の目でこちらを見ていた。  たしか私が幼稚園の頃、水族館で母がこのサメを買ってくれた。こちらを見ている瞳が可愛くて、目が離せなくなって母にそれをねだったのだった。記憶の泡がフツフツと浮かび上がってくる。  ちがう。サメだけじゃない。  今は七匹となったぬいぐるみにそれは紛れていた。イルカだ。イルカのぬいぐるみ。まん丸の黒い瞳でこちらを見つめている。これもそのとき一緒に買ってもらったのだ。  当時の私はよく『お話遊び』をしてた。お姫さまを王子様が助けにいく、悪者を皆で倒す――そんなストーリーにそって人形やぬいぐるみを動かし遊んでいた。  その『お話』の一つにイルカとサメが主人公のものを私は生み出していた。  
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