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それは、僕が花街で手紙の代筆の仕事を始めた時だった。
教員の仕事だけでは貧乏だったので、花魁たちが客や色に送るための手紙の代筆の仕事を引き受けた。
これが結構金になる。
金を持ってる女性しか頼まないし
まぁ金がない女性たちからは良い思いをさせてもらったりする。
人里離れたこの街は、季節も関係なく毎日毎日、賑かで、そして酷く寒く、哀しい色をしていた。
『ウチね、あの桜の木のむこうから来たんよ。母さんが病気でね、私を売って母さんのお薬にして貰ったん』
代筆の仕事中にお茶を出してきたあか抜けない少女。
花街では様々な地域から来た娘たちが訛りを隠す為に、花街言葉に話し方を変えるらしい。
だがこの少女はまだ来て日が浅いのだろう。
年は僕が教えている子供たちと同じぐらいの年。
この年では、この街の意味もまだ知らないだろうに。
酷く胸が痛くなるのは、僕の自分本位な考えからだ。
『せんせー、ウチも少しなら字を読めるんよ。あの桜の漢字、友達は誰も読めんけどウチは読める。すごかろう?』
ケタケタと笑う少女を、その時間で止めてしまいたい。そのままこの時のまま、ずっと居てほしい。
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