言葉はいらない。

3/6
前へ
/8ページ
次へ
でもそれは叶わずに。 数年後、少女は紅をひいた。 花街を練り歩く少女は、その花によく染まり寂しげな色を漂わせていた。 綺麗な着物を身に纏い。 豪華な簪で着飾って。 ゆっくりしなやかに、街を練り歩く。 『先生、わっちて言葉どうもウチには馴染めないんよ。ちょっと気取っとるよね』 そうはにかむ少女はもう居なかった。 「先生、お仕事お願いしたいのでお部屋に来て頂けませんか?」 「お仕事?」 「――客のふりをして欲しいでありんす」 そう申し訳なさそうに頭を下げる彼女に言われ、紙と筆を懐に忍ばせて彼女の部屋を訪れた。 彼女の部屋には見たことのない品がいっぱい並べられている。 かふぇと呼ばれる飲み物や洋風のドレスに、リボンのついた帽子。 金平糖やカステラ、はたまた尖った靴に硝子に入れられた金魚。 ついついキョロキョロ見渡していると、彼女は静かに窓の戸を開けて、月を背に琴を引き出した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加