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でもそれは叶わずに。
数年後、少女は紅をひいた。
花街を練り歩く少女は、その花によく染まり寂しげな色を漂わせていた。
綺麗な着物を身に纏い。
豪華な簪で着飾って。
ゆっくりしなやかに、街を練り歩く。
『先生、わっちて言葉どうもウチには馴染めないんよ。ちょっと気取っとるよね』
そうはにかむ少女はもう居なかった。
「先生、お仕事お願いしたいのでお部屋に来て頂けませんか?」
「お仕事?」
「――客のふりをして欲しいでありんす」
そう申し訳なさそうに頭を下げる彼女に言われ、紙と筆を懐に忍ばせて彼女の部屋を訪れた。
彼女の部屋には見たことのない品がいっぱい並べられている。
かふぇと呼ばれる飲み物や洋風のドレスに、リボンのついた帽子。
金平糖やカステラ、はたまた尖った靴に硝子に入れられた金魚。
ついついキョロキョロ見渡していると、彼女は静かに窓の戸を開けて、月を背に琴を引き出した。
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