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「浴衣着たいーっ」
新しい浴衣を買ってもらった日。
深い藍色に朝顔柄の浴衣を買ってもらったあの日。
私はお祭りでもないのに、どうしても浴衣が着たいと母にせがんだ。
「少しだけよ」と着せてくれた母の目を盗み、靴箱の中から下駄を引っ張り出す。
お祭の日まで待てなかった。
慣れない下駄でカラコロと道を歩き、あの神社の近くまで来た時、上の方から微かに祭り囃子が聞こえた気がした。
私はそれに誘われるように鳥居をくぐると、何の躊躇いもなく百段階段を昇って行った。
子供が下駄で昇るにはかなり足元が危ないが、その時の私に迷いはなかった。
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