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まるでプチトマトのような色と大きさの『アレ』は、意外にも柚子や酢橘のような厚い皮で守られ、小さな梨果が少々乱暴に握ろうともびくともしない。
「はい、ママ」
梨果がそう言いながら『アレ』を誇らしげに差し出すと、母は、
「ありがとう」
と言って『アレ』を受け取り、その小さな果実に包丁を入れた。
切り口からは限りなく黒に近い紫の果汁が飛び出し、母のエプロンを汚す。
「あら、嫌だ」
母はそう言いながらも、
「はい、じゃあ、これをパパに持って行って下さい」
と、半分に切った『アレ』を小皿に乗せ、梨果に渡した。
梨果は待ってましたとばかりに『アレ』を受け取ると、嬉しそうに、
「はい、お待たせしました」
と、父の元へと運ぶ。
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