道角でぶつかるのはパンを加えたヒロインだけにあらず

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「がっ!?ああぁぁぁぁっ!!?」 腕の骨が粉砕された感触を木刀越しに理解し、悶絶する男を見下ろしながら落としたナイフを踏み砕く。 「安心しろよ。別に腕が使い物にならなくなっても問題ないからよ・・・どうせもう使う機会も無いだろうしな」 我ながら悪党染みた台詞だと苦笑して木刀を高々と振り上げる。それに恐怖した男は腕の痛みで顔を涙と鼻水でグシャグシャにし、声にならない声をあげながら後ずさる。 「始末屋、樫葉 睦(カシバムツミ)。アンタの命・・・徴収するぜ」 ――――――――― ―――――― ―――― 「また面接落ちた」 夏の残暑も終えつつある秋の昼下がり。会社のパンフレットや資料、履歴書等がはいった鞄を地面に無造作に置いてネクタイを緩めながら公園にあるベンチにドカリと座る。 スーツの窮屈さももはや気にならなくなるほど入社試験を受けてきたが、結果は先程言った通り全てが不発に終わっている。しかし、俺にあるのは受からない憤りでもなければ落とした企業への憤慨でもない。 「まぁ・・・仕方ねぇか」 一番最初に面接で落とされた時と同じ事を呟く。落とされる理由など自分が一番良く知っているのだから怒る気にもなれないのだ。 実家は剣術道場で、その道場の師範での子供である睦も当然のように幼い時より剣を振るっていた。 しかし、両親の事故による他界で道場は潰れ、睦は高校二年にして漸く剣ではなくペンを握った。もちろん授業に追いつける訳も無く、睦は高校を中退して暫くアルバイトをしていた。それでもアルバイトの収入では生活は苦しく、かといって高校中退で学の無い自分が就職できるとも思えず。無料の求人雑誌を集めては首を捻る毎日。 そんな睦が選んだ選択は、無駄に鍛えた体を生かせる自衛隊に入隊することだった。最初こそ生活リズムに不慣れな分過酷だと弱音を吐いたが、3年もすればベテランの軍人と見違える程の力をつけた。 それでもしかし、上官との口喧嘩で頭に血が上った睦は、その豪腕でぶん殴ってしまい。上官の奥歯を砕いた上に気絶させた睦は難なく除隊となり、一般企業に入社を試みては玉砕し今に至る。
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