第1話

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 それから月日は流れていって、私はいま三十三歳。  好きだと言ってくれる人がいる。けれども切り替えがきかないの。 こんな想いを引きずったままお付き合いはできません。  こんな私のどこがいいのか・・なんてね、卑屈に考えてしまう のです。  でもお寺に来たのはそんなことじゃありません。仕事のついで。  北鎌倉は懐かしいわ。学生の頃に歩いた記憶が残ってて、アジサイ の綺麗だった尼寺にたまたま立ち寄った。  仕事で近くに来たのですけど・・私は雑誌の編集者。それで作家 さんの自宅を訪ね、原稿をいただいた。ネット時代ですからね、 メールでもよさそうなものですけれど、その先生はいまだに万年筆で 手書きです。  そのとき偶然お昼時と重なって、それで懐かしくてぶらぶらして いたというわけで。  その作家の先生の担当だった後輩が結婚で退社して、古株の私に 回ってきたってことですね。  そしてそこで不思議な書き付けを見つけてしまった。  尼僧さんにお話をうかがって、それのできるお方を紹介していた だいて、私はお寺を出たのです。  その方はお寺の裏手にひろがる山を越えた・・山と言っても北鎌倉 の街並をつくりだす緑の起伏の向こう側。歩いてそれほどかかるところ じゃありません。  尼僧さんに電話でお話しいただいて、すぐさま私は向かったのです。
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