第1話

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 十分ほど歩きました。距離はそうでもないのですけど、舗装の 途切れた登り下りをヒールでは歩きづらい。  赤い屋根の小さなお家。その前のお庭のところに、赤ちゃんを 抱いた若いお母さんが立っていて、いまかいまかと私を待って くれていた。  それにしても、ほんとに若い・・二十歳ぐらい?  そんな感じのママなのです。ミニスカートの白い腿がまぶしくて、 結界なんて恐ろしげなものと結びつく人ではありません。  この方のお母様かお婆ちゃんでもいるのかなと思いましたが、 お家にあげていただいてお話しをうかがうと、そのお婆ちゃんが 亡くなるときに、そういった力を授けられたそうなんです。 「あ、いえいえ違うんですよ、力といっても霊能とか、そういうこと じゃないんです。これはある種の儀式ですから、その作法を受け継い だだけなんですね。お寺でご覧になられた書き付けね、あれは祖母が 書いたものです。祖母自身が体験したことをしたためて、あそこに 置いておき、どなたか女性に読んで欲しいということで。祖母は 一昨年、九十七歳で逝きました」 「九十七歳・・すごいわ」 「ほんとですね、なのに母はとっくにいない」 「え?」 「私はいま二十二ですが、私が五つの時に母とはもう・・ですから私、 お婆ちゃん子なんですよ」  二十二歳・・とてもそうは見えません。高校生でも通りそうな、 小柄な子供みたいなお母さん。  その横で赤ちゃんがお座布に寝かされ眠っています。 「じゃ、さっそく作って差し上げましょうね」  そう言うと彼女、白い和紙を手に取って四つにたたみ、小さなハサミ で、たたんだ紙を手際よく切っていく。  切り紙細工。  その手許を見ていてね、人型に切られていくのがわかります。
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