第1話

9/17
前へ
/17ページ
次へ
 そのとたん・・それは一瞬にして・・結界の外の世界が消え 失せて、床や天井はそのままなのに壁四面の景色が変わる。  あの書き付けにあったような古い古い板壁です。周囲をぐるり と出口のない板壁に囲まれて、全裸の私は別世界へ引き込まれて しまったの・・。  木の黒く錆びた板壁のそこらじゅうに丸い節穴が空いていて、 その穴という穴から亡者の目が・・と思ったのでしたが・・。  あれ・・?   穴はどれも穴として黒く抜けているだけで、覗く目がないの です。そうか、節穴小僧は一人なんだ。亡者たちの目ではなくて 小僧さんのおメメなんだと思い直し。  そんなことを考えていた、そのときでした・・。  正座をする背中の真ん中に刺さるような視線を感じた。  気配ではなく、どう言えばいいのでしょう・・乾いた絵筆の先 で背の肌を撫でられるような、肌を筆先が掃くような、それの ほんのかすかな感じ・・確かにそんな気がするのです。  全身ザザと鳥肌です。振り向いてみたんです。  そしたらね、座る私の腰の高さの節穴に、キラキラ光る目が ひとつ。  若い男の眸のように澄んで輝く眸がひとつ、私を見つめている のです。  ゾっとする寒気をこらえて生唾を飲む私です。  そしたらその眸が、穴から消えて別の穴へ、また消えて別の 穴へと移ろっていくのです。  どの穴から覗かれるか予測がつかない。全身くまなく舐め回す ように見られます。  それだけではありません。眸の覗いた節穴から、ちょっと幼い 少年の声がする。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加