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そのとたん・・それは一瞬にして・・結界の外の世界が消え
失せて、床や天井はそのままなのに壁四面の景色が変わる。
あの書き付けにあったような古い古い板壁です。周囲をぐるり
と出口のない板壁に囲まれて、全裸の私は別世界へ引き込まれて
しまったの・・。
木の黒く錆びた板壁のそこらじゅうに丸い節穴が空いていて、
その穴という穴から亡者の目が・・と思ったのでしたが・・。
あれ・・?
穴はどれも穴として黒く抜けているだけで、覗く目がないの
です。そうか、節穴小僧は一人なんだ。亡者たちの目ではなくて
小僧さんのおメメなんだと思い直し。
そんなことを考えていた、そのときでした・・。
正座をする背中の真ん中に刺さるような視線を感じた。
気配ではなく、どう言えばいいのでしょう・・乾いた絵筆の先
で背の肌を撫でられるような、肌を筆先が掃くような、それの
ほんのかすかな感じ・・確かにそんな気がするのです。
全身ザザと鳥肌です。振り向いてみたんです。
そしたらね、座る私の腰の高さの節穴に、キラキラ光る目が
ひとつ。
若い男の眸のように澄んで輝く眸がひとつ、私を見つめている
のです。
ゾっとする寒気をこらえて生唾を飲む私です。
そしたらその眸が、穴から消えて別の穴へ、また消えて別の
穴へと移ろっていくのです。
どの穴から覗かれるか予測がつかない。全身くまなく舐め回す
ように見られます。
それだけではありません。眸の覗いた節穴から、ちょっと幼い
少年の声がする。
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