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「其れ、お前にやるよ。」
「何に使うのか、判んねーけどな。」
佇む王―――信長公はそう言って、戦が済んだばかりの此の景色を仁王立ちで眺めた。
渡された其れは、よく見ると瓢箪に似た形をしている。
真ん中がただ括れただけの、透き通る硝子の小瓶。
木の枠にぴったりと嵌め込まれ、何だか窮屈そうにも見えた。
「何が、入ってたんだろうな。」
まるで儀式の様に。
決まった間合いで仁王立ちを崩す王は、僕に振り向くなり瓢箪を小突いて笑う。
「何が・ですか…。生憎ですが私には、皆目見当も…。」
「時計に見えねーか?」
「……トケイ?」
また、聴き慣れない言の葉。
南蛮の大凡は書物で何度も学び、僕自身も其の教えに従い…改宗までした筈だが。
目前の王は何時も、其の先の事象(書物では補え得ぬ未知)を、僕に突き付けて来る。
「え~っとな、時を計る・って書く。」
「良く考えてるよな。」
宙に指を滑らせ、王はまた、笑った。
「時を…計る?」
「便利だぞ、憶えると。」
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