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告げるなり王は
颯爽と、隣に佇んでいた愛馬へ跨がる。
黒く凛々しい馬。
翻る深紅の外套が、一層映えた。
「お前、馬は残ってるか?」
「はい。」
「よ~し。じゃあ持って来いよ。」
「良いもん見せてやる。」
つい先刻まで戦をしていたのが嘘の様に、王は明るく僕に語り掛けて来る。
「…お待たせ致しました。」
頂いた“時計”は懐に。
僕は共に戦場を駆け抜けてくれた相棒を連れ、王のもとへ戻った。
「うわ。そいつ、怪我してんじゃねーか。」
「先に言えよ。」
途端、王はするりと馬から降りる。
僕も倣う様に促されたので、返事をして相棒から身を降ろした。
(忙しい御方だ。)
真意が全く読めない。
代わりに自分の馬に乗る様にと言われ、其の通りにする。
…背が、高い。
肉付きも、僕の相棒とは一回りほど違いがあるように思えた。
王の方は何をするのかと様子を見てみる。
いけない。
僕の相棒へ歩み寄り、腹に刻まれている一文字に触れようとしていたのだ。
「…殿!」
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