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僕は慌てて制止する。
相棒は、僕以外の人間へ懐かぬ様に躾を施していた。
珍しい事ではない。
馬と云うのは一頭あるだけで、小さな寝所にも食糧にもなる。
万が一にも、犬の様に尻尾を振って敵方に付かれては困るからだ。
「如何した?」
しかし。
王が手を止める事は無かった。
不思議と、相棒が其れを拒絶する事も。
「……!」
「…よく、躾けてるな。」
「流石だ。」
傷に手を添えたまま、王は真っ直ぐに相棒を見ている。
何が起きているのだろうか。
相棒は間も無く、座り込む様に膝を崩してしまった。
其処で待つ事を、決めたと言わんばかりに。
戦場で。
此の悲惨とも言える光景を視界に入れたまま。
一体如何やって、主でもない人間が其の高揚する野生の本能を鎮めたと言うのだ。
(…計り知れない。)
恐ろしさにも似た滾りが、僅かに身を震わせる。
「待たせたな。」
王は何事も無かったかの様に、此処にまた戻って来る。
ずしりと跨がる覇気。
黒い馬が其れを、しっかりと支えた。
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