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「今日は特別だ。」
機嫌が良いのか、王は僕を黒馬に乗せたまま手綱を引く。
何処へ行こうと言うのだろう。
「お~い、与一郎!」
器用に馬を翻しながら、呼ぶ。
間も無く現れたのは白馬に乗った美丈夫。
家紋で権威を見て取れる人物は
返り血も其のままに王の右へ並んだ。
「戦場(此処)で名前叫ばないでよ」
「横槍受けたら如何してくれるの」
淡々と紡がれる言葉は驚くほど抑揚が乏しい。
「そう堅いこと言うなって。」
「何の用」
「計ってくれ、時間。」
王は其の人物に何かを放り投げた。
「可成は」
「帰った。」
「…光秀」
「何だよ、嫌なのか?」
「別に」
受け取った掌程の装飾品を開き、人物は視線を落とす。
表情も乏しいので、其れが肯定なのか否定なのかすら、判らない。
ふと、視線が合う。
「あ……。」
戸惑ってしまった。
挨拶をする間も無く、直ぐに逸らされる視線はまた、背に在る王を見た。
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