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マイクの先を見据え、真剣に答えを紡ぎだす板東さんに、横から真木さんの相槌が入る。
「じゃあ、初めからあきらめる必要はないと?」
「―うん。だって、どうしてもあきらめられないんでしょ。彼じゃなきゃダメなんでしょ?
そんなの、あきらめようとしたって無駄だよ。周りが何言って止めたって、それが本人の意思なんだから。」
「う~ん。難しいですね。」
続いて、板東さんの視線が俺に向けられた。
「海君は、どう思う?」
俺は、どう思うか。
そんなこと、決まっている。
絶対に実らない恋なんて、するだけ時間の無駄だ。
たとえ今、楽しくても。
絶対に絶望が待っている。
その苦しみに耐えられるか。
幸せな思い出も、全てその絶望に飲み込まれ、後に残るのは悲しい思い出だけ。
そんな恋、する意味ない。
「俺は、この友達と同じで、さっさと身を引いた方がいいと思いますね。自分が深入りして苦しくなる前に。
今は絶対にこの人じゃなきゃダメって思っても、少し視界を広く持てば、他にもいると思うんです。もっと自分に合う人が。
今はその人しか見えてないから、つらいと思うけど、俺はいったん身を引いてみてほしいと思いますね。」
「なるほどね。自分のために、傷つかないようにっていうのも、大事だよね。
…と、こんな感じで二つの意見が出ましたが、ワサビネコさんいかがでしょうか?」
自分から傷つこうとするなんて、意味が分からない。
そんなのは、俺から見たら、滑稽なものだ。
――「あなたにそんなこと言われる筋合いないんで。私の勝手でしょ。」――
そういった流那の姿が脳裏に浮かび、俺はその残像を消すように目を閉じた。
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