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*
「おつかれさま~。」
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
収録が終わり、板東さんの掛け声を筆頭にその場にいた人たちが挨拶をして片付けに取り掛かった。
「海君、来てくれてありがとね。」
「いえ、こちらこそなかなか都合が合わなかったのに、呼んでくださってありがとうございました。」
まだ向かいの席で座ったまま書類整理をする板東さんに、ぺこりと頭を下げた。
「このあとお茶でもどう…
…と言いたいところだけど、次仕事なんだよね?」
すかさず口を挟もうとしたマネージャーを制し、俺は
はい、と頭を下げた。
ドラマとはまた別の現場で、板東さんとゆっくり話ができるのは俺としてもかなり魅力的だったのだが、たまたま予定が合わなかった。
マネージャーが次の現場の場所や時間を羅列している間、ジャケットを羽織りながら視線を走らす。
「そしたらこの後、打ち合わせいいですか?」
「うん、そうだね。じゃあ先行ってて。」
胸に書類のファイルを抱えた真木さんが板東さんに話しかけ、板東さんが答える。
その距離感がどこか先ほどまでの収録中のそれとは違って。
あれ、あの二人って…
「海君行くよ。」
その瞬間、俺は背中を押され、スタジオを後にした。
*
「雑誌掲載インタビューが4件、あとテレビの取材も3件来てるからね。」
「…はい。」
それから数日後のこと。
マネージャーの車で仕事の現場へ向かう中、今後のスケジュールがずらりと並べられる。
ついこの前、染井海主演の映画の公開が発表されたのだ。
それ以来、ドラマ終了後、穏やかだったメディア出演が一気に増え、慌ただしい日々を送っていた。
「それから、主題歌の件は、まだ公表されてないから…触れないようにね。」
「わかってます。」
その話題の時、あからさまにトーンが暗くなるマネージャーの杉田に、いい加減嫌気がさしすっと目をつむった。
「やっぱり、やる気はない?」
「…もうその話はやめてください。」
目をつむったままそう言った俺に、杉田は困ったようにため息をついた。
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