第8話

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~Runa side~ 二人、より添いながらイヤホンを片耳ずつはめ、耳を澄ます。 隣で左耳にイヤホンを付けた彼の肩に、そっと頭を乗せながらその左腕に絡ませた右手で、音楽プレーヤーの停止ボタンを押した。 「どう?」 「これ本当に流那が作ったのってぐらい、驚いちゃった。本当にすごいよ。」 「ふふっ、ありがとう。」 まさにいはイヤホンを外すと、私に返す。 まさにいの部屋。 忙しい合間のオフタイムを、私のために割いてくれたまさにいに、手作りケーキで精一杯のもてなしをする。 休日のまさにいは、いつか見た『日常』を描いた彼のPVよりもちょっとだけ無防備で。 白のTシャツにグレーのスウェットパンツ。 微笑む左ほほにはまだ少し寝跡がついているし、後ろを向けばぴょんとはねた寝癖が可愛い。 幸せ… 私も右耳から外してプレーヤーごとテーブルの上に置いた。 やっと完成した、バンドサークル用の楽曲のデモテープ音源をいち早くまさにいに聞いてもらったところだった。 「それはそうと、まさにい。 映画主演おめでと~~~!!」 そう言ってぎゅっと抱き着くと、あははと楽しそうに笑って私の頭をやさしくなでた。 「ありがとう、流那。」 先日メディアでも大々的に報じられた、板東雅貴の主演映画。 今日も、それをお祝いするのが最大の目的で、張り切って手作りケーキを焼いてきたのだった。 なにより驚いたのは、その映画が『板東雅貴・染井海のW主演』ということだ。 しかも、二人が兄弟設定って。 思わず監督やスタッフの名前から『古川蒼真』を捜してしまったが、当然見当たらなかった。 全く別のところから、同じような話が来たらしい。 なんとなくほっとしたのを覚えている。 「撮影はいつから始まるの?」 「もう今月の半ばから早速。」 「えー!そうなんだ。また忙しくなるね。」 「うん。でもドラマと違って一気に撮っちゃうからね。一か月くらいじゃないかな。」 「どこでやるの?」 「あ、それがホテル借りてロケなんだよね。」 「わー、そしたら一か月会えなくなっちゃうのかー。さみしい。」
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