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「歌う気はない。マネージャーにもそう伝えてる。」
「なんで?」
俺の言葉を待っていたように、すかさず切り替えされ、眉を寄せる。
「俳優業に専念したいから。」
「なんで?」
「だからなんでなんでってうるせえんだよ!」
「だってわかんないもん!!」
声を荒げ、にらみ合う。
「あなたは歌うのが好きだし、まさにいだってあなたの歌声を認めてる。それなのに断る理由がわからない。
なんで自分のチャンス、自分で無駄にしちゃうの?」
「俺の勝手だろ。」
「勝手じゃないよ!!」
言い切った流那を、すっと見上げた。
「まさにいや、映画や、あなたのファンが、あなたの歌を待ってる。
それなのに、理由も言わずに断るなんて、絶対認めない。」
どこまでも見透かすような強い視線から、逃れるように目をそらし、俺は立ち上がる。
俺がテーブルに近づき、ノートパソコンを立ち上げる様子を、じっと目で追いかける気配を感じる。
ある動画を検索したところで、彼女に視線を戻した。
「どうぞ。」
不遜にパソコンを指し示すと、流那は怪訝そうに近づいてきて、画面の前に座った。
「これ…、あなた?」
問いかける流那に視線だけで答える。
そこには、まばゆいライトの中、ステージで踊りながら歌う自分の姿が映し出されている。
俺がデビュー当時、一枚だけ出した個人名義の曲。
その曲を引っ提げて、有名な音楽番組に出演した時の映像だ。
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