第8話

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二度と見たくない映像、二度と聞きたくない音に、俺は画面から目をそむけてぎゅっと目をつむる。 そして、彼女の口からその言葉が出るのをじっと待った。 「口パク…?」 たどり着いた答えを聞き、俺は頷くように瞬きをした。 「え、でも、なんで生で歌わなかったの?」 「その曲、踊りながらじゃとても歌えないんだよ。」 「……。」 彼女は気づいたように視線を画面に戻した。 「その下、見てみ。」 動画の再生が終わった画面を顎で示すと、流那は下へスクロールし、コメント欄が表示される。 少し離れた位置にいる俺からは見えないが、もう忘れることは一生ない、鋭い刃をもった文字の羅列が頭の中を巡りだす。 画面の前で彼女が息をのむ気配がした。 「ひどい…このコメント。」 ―歌えないから口パクなんだ ―俳優は俳優だけやってればいい ―歌手なめんな ―実力ないくせに色いろ手伸ばすな 記憶の奥にしまいこんでいたものが、いとも簡単にその鍵をあけ、俺の中を駆け巡る。 「でもこんなの、よくある話でしょ?口パクだってたたかれるのなんて、珍しくないじゃない。」 誰かに言われたような台詞を吐いた彼女を冷酷に見返した。 「その‘よくある話’にまとめられる気持ち、わかる?」 俺の言葉に、はっとしたように口をつぐんだ。 自分は違うと思っていた。 才能があるといわれ、ちやほやされ、そうして培われていった自信は、いとも簡単に崩れ去った。 「でも、ネットでたたかれるのなんて、一瞬でしょ?言いたい奴には言わせとけばいいじゃない。」 「一瞬だろうがなんだろうが。 前のマネージャーはこれが原因でやめた。」 ショックを受けたように彼女の瞳が開かれる。
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