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「俺のブログ、事務所の掲示板、レコード会社のホームページ。一気に荒らされて一時閉鎖を余儀無くされた。
レコード会社は契約をうちきって、事務所内でも気まずい雰囲気が流れた。
俺が歌ったって、何もいいことないんだよ。
だから俺は、二度と歌わない。」
部屋に沈黙が流れる。
暫くして、彼女が口を開いた。
「それとこれと、何の関係があるの?」
思ったよりもはっきりした声で。
思ってもみなかった言葉を発した彼女を、見返さずにはいられなかった。
「…は?」
「過去は過去、今は今でしょ。
曲だって別物だし、状況だって変ってる。
今のあなたのバックには、板東雅貴がついてるんだよ?
どんどん歌えばいいじゃない!
口パクだって言われなくなるくらい、何度も何度もテレビで歌えばいいじゃない。」
「…んなことしたって、変わらねえよ。」
「変わるよ!!」
「一度浸透した噂は何したって変わらねえ!」
「違う。」
不意に低く言った声に、部屋の中に自分たちの声が反響しているのに気付いた。
また、あの見透かすような目だ。
その目に見られると、落ち着かなくなる。
「それは、染井海。
あなたが思い込んでるだけ。」
「……。」
「人を信用できない?
それはあなたが信じてもらおうとしてないからでしょ?
裏切られるのが怖くて、今だって歌うことから逃げてる。そんなの、信じてもらえなくたって当然だよ!
あたりまえじゃない!」
人を信用できない。
また自分の心を見透かされたようで、わずかに目を見開く。
流那は、まっすぐに俺を見つめている。
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