全裸男

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全裸だ。 自室でもなく、お風呂でもない。 そもそも室内じゃない。 学校の校舎裏で全裸だ。 それは、何故か。 いじめである。 昨今のいじめはなかなか手厳しいようで、制服は焼却炉で燃やされた。 どうやって帰れば、という問いに対して返ってきた言葉が、「葉っぱがあるだろ?」だった。 これはついに来たな……と。 自殺する日が。 ここまでされてまで生きている理由なんてないだろう。 つねに誰とも繋がりを持てず、独り孤独と戦う毎日に疲弊していた際のこんな出来事だ。 むしろ生きる理由を探す方が難しいんじゃないかな。 ここが限界だろう。 さて、どうやって死ぬか。 制服と同じように焼却炉で焼かれる? いや、そんな苦痛の伴う死にかたは無理か。 首を吊るのが一番思い描きやすいけど、辺りに首を吊れそうな物はない。 そのまま道路に走り出して車に跳ねられる? いや、死ねるかどうか微妙か。 屋上から飛び降りる? 誰かに見られたら止められちゃうか。 ……あ。 そういえば、校舎裏の倉庫に草刈り用の鎌があったはず。 あれで手首ないしは首の動脈を切れば死ねる。 決して楽な死にかたではないけれど今この場に置いては一番現実的だろう。 『私』は、2階の窓から倉庫に目をやる。 『彼』が鎌に気付くのも時間の問題だろう。 ついに、彼が死ぬ。 その確信はあった。 彼のことを、ずっと見ていた私には分かる。 もう心が折れたでしょ? 「ちっくしょーー!!!! 絶対負けないからな!!!!」 彼が突然叫ぶ。 叫んだ後に地面に落ちていた葉っぱを無作為に集め、それで自分の秘部を覆い、走り出す。 それを目撃した私は、高揚する気持ちを止められずにいた。 彼は、あんなに惨めな姿になっても生きることを選択したのだ。 今、この瞬間をもって、私の気持ちに整理がついた。 彼のやること全てを尊重し、見守ろうと決めていた私はもういない。 ただ、隣にいたい。 私は彼が好きなのだ。
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