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僕は窓の外を覗いていた。
目の前には、広大な海が広がっている。人は全く見当たらない。
そのせいか、時折、この海を独り占めしているような錯覚に陥ってしまう。
ただ、仕事をサボるためにここに来たわけではない。
仕事より重要な用事があっただけだ。
僕の携帯電話には、異常な数の着信が残っていた。後々、酷く叱られるな。
ホテルのロビーにある掛け時計は十時を示している。
正直、待ちくたびれた。
九時からずっとここに居るのだから。
すると、ホテルの入口から黒装束の生命体が入ってきた。
もちろん人型だ。
しかし僕には、この生命体を人とは呼べない理由があった。
「あんたがホワイトか。取引の条件はもちろんわかっているな?」
黒装束は口を開かずに言った。
「当たり前だ。これが倉庫の鍵だよ。」
そう言いながら、僕はみすぼらしい鍵を投げ渡す。
「また取引できることを望んでいる。」
黒装束はそう言い残すと、消えた。
フロント係が驚いた表情でこちらを見ていた。
僕は気に留めずに、そのまま車に乗り込んだ。
僕は悪人と呼ばれる者達の一人と言えるだろう。
僕のやることには社会的な利益は無いのだから。
車はやがて海を離れ、森の方に戻っていく。
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