1章 善と悪の差 2節 意志の神

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 「貴様は悪質なセールスマンなのか?」 散らかったリビングにいるブラックソードに吐き捨てる。 「お前が電話をいきなり切るからだろ、クラウス。王族専門の殺し屋なんて、どうせ暇だろう?」 確かに。だが、死にに行きたい訳では無い。 怪物退治をさせられるなんて御免だ。 「じゃあ、返事をしてやる。断る、だ。」 「まだ内容を言ってないだろ。今回はお前の力が必要なんだ。」 何十回と聞いた台詞だ。 「分かった、内容だけは聞いてやる。終わったら出て行け。」 この男はしつこい。何回念を押しても足りない程に。 「実はフェアベルグに金鉱があるらしい。そこで、二大財閥の一つのベル家が開発を始めたそうだ。」 ベル家は政府の資金源でもある。 この国で最も有名な企業を持っていたはずだ。 「大して稼げそうもないが?」 今更始めるくらいなら、時間も金もそっちに回せばいい。 「その通りだ。不自然なんだよ。それに、大量の従業員を集めている。周囲の村から、男性が消えたほどだ。」 森の中にある村は閉鎖的だ。 金の使いようで、自由に操れる。 「それがどうしたんだ?」 「村から家族を返して欲しいという依頼がたくさん来ていたんだ。」 なるほど、それが用なのか。 「もう終わったな。さっさと帰れ。」 だが、元々引き受ける気はないのだ。 「まさか見捨てるとは言わないよな。」 ブラックソードは俺の情に訴えようとしている。 「知るか。俺には関係ない。どうせ一人で出来そうな内容だ。」 「俺はもう若くない。そこで若者の力を借りるのは自然だろ?」 未来の労働力を早くも使い潰す気なのか? そう言ってやりたいが、その前に確認しておくべきことがあった。 「・・・もちろん、報酬は用意してあるんだろうな。」 「お前の集めているこれか?」 突き出されたブラックソードの手には、紫色の薄い欠片が握られていた。
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