第1話

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「椎!?怪我はないか?」 隼人さんが心配そうに言う。私は砕けた竹刀の破片を急いで拾うと言った。 「大丈夫です……でも竹刀が…」 「椎は相変わらず手加減できないしな!」 「でもいい試合でした。篤史と椎ちゃん楽しそうでした」 相馬と次郎さんもくる。 「椎なら師範代達にも勝てるな!」 「…現にこの前負けた本人が言わないでください」 真一郎さんの毒舌も聞こえた。篤史がすかさず隼人さんに駆けよる。 「試衛館と試合できますよね!?」 そして数日後に試衛館との試合があったのは当然のこと――篤史の作戦勝ち―― だった。 白信流のほうが名があるだけに道場も広く、使い勝手がいいので先方を招いた形 となった。向こうがついたとたんに篤史は近藤さんと仲良く話をし出した。 「近藤さん、よく来てくれました」 「それはこちらの台詞だよ。君のおかげで白信流と試合ができるだなんて夢のよ うだ」 「ふふふ…師匠は身内に甘いんです」 この前会った土方さんと沖田さんの他にも数人いる。しかし何故土方さんと沖田 さんはあんなにも一緒にいるのだろうか。私は何故か気持ちが揺らいだ。 ……こっちを向いて。 「あ、椎くん…だったよね」 近藤さんが私の側にくる。 「ウチの総司が君と試合したいらしい……あいつが他の誰かに興味を持つなんて 初めてだよ」 嬉しい。顔がにやけそうになるのを私はこらえた。 「やってくれるよね」 「は」「ちょっと待った」 即答しかけた私を止めたのはいつのまにか背後にいた隼人さんだった。 「うちの椎と試合したいというのはあの沖田なのか?」 なぜなのか怒っているような隼人さんの声が不思議だった。 「聞くところによると試衛館の内弟子たる沖田士は練習だろうが稽古だろうが手 加減はしない、いや、出来ないそうでは」 「ええ、その通りですとも雑賀原さん。しかし、お宅の椎くんとウチの総司はお 互いに惹かれ合っている剣士。止めるのが野暮というものです」 近藤さんはそう言って笑うけれども目は笑ってなかった。 「手加減のできないような若造に私の弟は渡せん」 隼人さんはそう言うが早いか私の左腕を引っ張った。何故だ。私はこんなにも沖 田さんと闘いたいのに! 「弟…?」 近藤さんは場にそぐわず首を傾げている。そういえば前回会ったとき名字は言っ てなかった。 「僕の名前は雑賀原椎です」 隼人さんに腕を引かれながら律儀な言う。
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