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「ほう、雑賀原さんに弟君がいたとは……それで箱入り息子なのだな」
「?」
近藤さんは一人で納得していた。
「隼人さん、試合やらせてくれないのですか」
私が訴えても目を合わせてくれない。ここまできてそれはない。篤史は別にいい
だろうが、私は沖田さんと戦うために今日の日を待っていたんだ。今だ土方さん
と楽しそうに話している沖田さんを見やる。彼にとって私はちょっと剣を交わら
してみたい程度のガキなのだろう。武士の出で私より六歳も年上の彼とは私はあ
まりにも遠すぎる。身元不明の養子、しかも女。悔しくて涙が一欠片はらはらと
落ちた。
「!?」
隼人さんが掴む腕が緩んだ。不振に思い、顔を上げると隼人さんが固まっていた
。
「隼人、さん……?」
意味がわからなくて問うが反応はない。私が涙を落としたところを見てショック
だったのだろうか。この程度で泣く弱い私に失望し、愛想がついたのかもしれな
い。たった一滴の涙が掠めた頬が乾いて気になる。けれど私は隼人さんから目を
逸らさずに自分に下される罰に身構えた。
「………そんなにあいつが良いなら、そんなにあいつと戦いたいのなら勝手にし
ろ」
今まで見たことも聞いたこともない隼人さんらしかぬぶっきらぼうで冷たい返答
が返ってきた。そして私が何かを言うよりも早く踵を返して道場から出て行って
しまった。
まぁよくわからんけど試合しとけば?
事情を慌てながら相馬に話したらそんな風に言われた。その通りかもしれない。
なので近藤さんのところへ言って試合をさせて下さいと頼んだ。近藤さんも良い
人で何も聞かずに沖田さんのところへその旨を伝えに行った。因みに土方さんは
何故か篤史と向こうで熱戦を繰り広げていた。篤史が押されているところ初めて
見た。土方さん強いんだな。試衛館の人達は私を初めてずくしにしている。
「良かった。君と勝負したかったんだけど出来なさそうな雰囲気で心配したよ」
沖田さんはそう言って私に話しかけた。声はまるで山奥の清涼。日暮の陰ある声
が聞こえそうだ。そしてその表情。土方さんとは見劣りしてしまうが目鼻の整っ
た、やや女顔。薄幸というべきかもしれない。縁起でもないが。
「こちらこそ」
素っ気ない言葉を無意識に発してしまった。う…すみません。心の中で謝りつつ
彼を見る。人が良さそうで真面目。普通はそう思うだろう。しかし違和感。それ
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