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は表情。彼は土方さん達と話すとき以外に笑わない。比喩でもなく、無表情なの
だ。彼にとって私は土方さん達以外の人間という括りなのかもしれない。
私は足元を確認してから剣を構えた。当然稽古なので竹刀だが。下を見たときに
うっかり視界に沖田さんの白い素足がかすめて混乱するところだった。異性の足
なんて毎日見ているのに何故沖田さんのだと驚き戸惑うのか自分でも分からなか
った。
「いいですか?」
開始の問いに私は慌てて答える。
「ど、どうぞ」
いきなり切り込んできた。予備動作などなかった。その華麗な一線をそね身に食
らいながら避けると私は間合いを広くとるため後退する。当たった腕が痛い。鋭
い攻撃が続く。全てが完成した無駄のない動き。そして速い。疾風のようだ。
「っ!」
鍔が触れ合い音が鳴る。刀よりも潜もったその音は響かず消えた。篤史よりも強
い力が私にかかる。私は目を閉じた。意識を集中させ、心を研ぎ澄ます。集中。
喝ッ!!
勢い良く沖田さんの竹刀をどかすのでなく、一瞬力を全くなくしてわざと沖田さ
んをこちらへ引き寄せる。目を開き、不敵に笑う私を見て沖田さんは後退しよう
とするがかなわない。空をかける竹が逃さんばかりに追う。今までで一番良い突
きが彼の胴に決まる。
「くっ!!」
しかし私は沖田さんの苦しむ声を聞いて、無意識に、恥ずべきことに―――竹刀
を落とした。
「大丈夫ですか!!??」
私が竹刀を落としたことで気が抜けたのか座りこんだ沖田さんに駆け寄る。
「すいません!すいません!!痛いですか?ごめんなさい!!!」
私は混乱して謝りの言葉を重ねる。
「総司、どうした?」
試合が終わっていたらしく土方さんと篤史がこっちに来る。土方さんが血相を変
えて近寄るのを私は何故かおもしろく感じなかった。
「いえ、大丈夫ですよ。気が緩んじゃって……」
沖田さんが特に何でもないように言い、その瞳に嘘の欠片は感じなかったので私
は安心した。
「…それにしても、強いですね。椎さんは。一本取られました」
「そ、そんなことありませんよ。沖田さんだって初っぱなから一本決められたじ
ゃないですか」
「総司でいいよ。久しぶりに楽しめた」
「私のことも椎でいいです!」
どうやら私に対する沖田さんの好感度は上がったようだ。相変わらず無表情だけ
ど。
「念のため、座ってろ」
土方さんは沖田さんにそう命令すると私に向き合った。
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