第1話

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「総司に一本決めた腕を買って私と試合をしないか?」 思ってもみない申し出だったけれど篤史に止められた。 「椎、止めときな。土方さんはさっき俺に勝った…それに椎、怪我しているよな? 」 篤史はいきなり私の袖を捲った。沖田さんの竹刀に打たれた箇所が赤く腫れてい た。沖田さんはそれを見て立ち上がる。 「すいません、手加減なく打ってしまいました。…井戸はどこですか?」 篤史に井戸の場所を教えてもらうと沖田さんは私の腕を引いた。 「怪我をした私達は邪魔なる前に退散しましょう」 えっと…腕を引かれているのが子供扱いみたいで恥ずかしいのですが嬉しいよう な。あと何げに痛む腕とは別の方を引いているのも嬉しい。見せられないような 顔になっていることがバレないように私は俯いた。試合中とは自分でも別人にな った気分である。 「あ、井戸ってこれですよね」 「余所者だけど勝手に使わさせていただきますね」 「僕が先に使いますが……」 私は何も答えない、というか答えられない。何故なら、 「…痛い……………」 私は今まで練習でも稽古でも今回のように直撃したことがないので初めて相手の 攻撃で怪我をしたと言っても良かった。確かに投げ技等にも手をつけているので 打ち身や鞭打ちなんかには慣れているのだが、固い竹刀で一点を叩かれたのは初 めてである。 「大丈夫ですか?」 井戸水を手拭いに浸して腹の怪我に当てていた沖田さんは具合の悪そうな私を心 配に思ったのか、私をひょいと抱える。 「!?」 驚いたときにはもう近くの柵に座らされていた。 「ごめん…気が付かなかった。ちょっと待っててね」 手拭いをもう一つ用意して浸して絞って私の腕の患部に当てた。ひんやりとして 気持ちが良い。聴覚が一瞬消えて蝉の声が聞こえなくなった。 「えっと…沖田さん、私、自分でやります」 「総司」 「総司…?」 「そう。沖田さんじゃなくて総司でいいって言ったでしょ……それにしても君、 柔肌なんだね」 「!?」 沖田さんが、笑った!!!!ってか恥ずかしい!女ってバレてないよね!?私は火を吹き そうだった。何で沖田さんの前だと気が動転してしまうのだろうか。 「君何歳?十五歳ぐらい??」 「あ、えっと…十六歳です」 「よく君くらいの子達と遊ぶんだ…神社とかお寺で」 どうやら誰もいない状況と私を子供と思っていることから彼が安心して笑ったよ うだ。
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