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「隼人さんが、私を探しているって」
「そんな急いで来なくても私はいなくならないよ」
道場前の庭から母屋まで全速力で走ったのがバレていたようだ。息は切れてない
し、汗もかいてないのに…。隼人さんは私の頭をぽんぽんと撫でると居間の引き
戸を開けて「こっちにおいで」と言った。
「これを君にあげたかったんだ」
私が先に居間に入らさせてもらうと隼人さんは背後から何かを私の髪にさし入れ
た。
――しゃらん。
「髪飾り……?」
「そうだよ。椎華はもう大人と言ってよい年になったしね」
「で、でも!!!」
指で確認するとかなり上物の珠がちりばめられている。きっと高かったはずだ。
「いつも私や父の古着しかあげれなくて悲しかったのだよ。私達が腑甲斐ないば
かりに年相応の女の子の振る舞いをさせてあげれなくてごめんね」
背後からの声がいつもより優しく哀しかった。私はそっと隼人さんに近寄り彼の
袖を掴んだ。
「隼人さん………」
何やら母屋の前が騒がしくなりふと我に返って私は隼人さんから離れた。
「師匠いますか?」
「稽古終わりましたぁ~!!」
「あ……すすすみません!!!」
師範代の竹内真一郎と春日相馬と稲垣次郎が部屋に飛び込んできた。次郎は私達
を見てあわてて引き替えそうとするが相馬が地雷を踏んだ発言をした。
「え?何??師匠と鬼女???逢引きかなんかか????」
「相馬!!」
真一郎が嗜めるももう言ってしまったことは取り消せない。
「……隼人さん、今日私、相馬さんと組み稽古したいな」
「ん?いつもは真一郎とやるのに……別にいいが」
「ちょちょ!待てよ鬼女!!悪気はなかったんだって!!!」
私の不穏な言動に何か感じれところがあったのか相馬は慌てて私に謝る。私は隼
人さんがさしてくれた髪飾りを懐にしまうと相馬の手首を掴み、道場へと引きず
っていった。因みに真一郎さんは二十五歳と隼人さんと同い年で相馬と次郎は二
つ下の二十三歳。どちらにせよ私よりずっと年上なのだが相馬だけは年上に思え
ない。竹内真一郎さんは農村出の二枚目で、植物や動物に詳しく独学だがかなり
の物を知る知識人だ。私は師範代の中でも真一郎とは気が合い、よく一緒に出か
けたりする。春日相馬はまだ没落していない武士の跡取り。しかし本人は跡を継
ぐ気はまったくなく、こうして毎日道場にくるのである。稲垣次郎、彼は隼人さ
んの幼なじみである。極度の人見知りだが、打ち解けてくると結構しっかりした
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