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人で他人を優先させてしまう優しい人でもある。この三人は先代からの付き合い
で私のことを女と知りつつも一緒に稽古をしてくれたり遊んでくれたりする数少
ない人間だ。
先程私が一人で庭の桜と稽古をしていたのは女が剣術をする、女が男の格好をす
ることを卑しいと思う時代だからである。だから私はなるべく女と悟られないよ
う身なりをおろそかにしているといってもよい。
「うわー腰痛い腕痛い足痛いもうやだ」
相馬が私との稽古が終わったとたんに泣き言を言い始めた。まったく。
「二人ともお疲れ!」
次郎さんがわざわざ手拭いを持ってきてくれた。どうやら稽古が終わるのが一番
最後だったらしく、先に終わっていた門弟達が私と相馬の周りで休憩をしていた
。道場内の熱気が凄まじく、まだ初夏だというのに汗だくだ。
「しっかし何でお前俺と互角なんだよ…」
「ってか相馬さんは防御少しはしましょうよ…」
「いいの、俺は攻撃第一だし。そういうお前は予想外の攻撃に弱いしな」
「相馬さんの存在が予想外なんです」
「おいおい………」
「二人とも良い稽古でしたね」
「あ、真一郎に師匠」
因みに相馬は真一郎さんを呼び捨てである。
「やっぱり椎華は才能があるね」
「展開の速さがずば抜けていますしね」
「流石私の妹です」
「将来が楽しみですね」
「おいおい!!!俺は褒めないのか?」
「相馬は勢いに頼りすぎる」
「全体的に小回りが利かなくて攻撃時に隙ができる」
「力はあるんだけどね」
「もっと頭を使え」
「…………ひでぇ」
「相馬はきっときっとき……えっと…うん」
「いいよ次郎。無理に褒めようとしなくても。むしろ傷つくから……ぐすん」
「相馬は強いよ」
私は手拭いで汗を拭きながら主張する。そう、普段はおちゃらけている相馬だが
実戦では力が強く、持久力もあるので長期戦になったら私は勝てない。それに彼
は竹刀や木刀でなく自分の愛刀を手にしたときも強い。普段は使わない刃を手に
したとき人は多少なりとも戸惑う。しかし相馬にそれはない。迷いがないのだ。
「えっと…勝ったお前に言われると嬉しいのか哀しいのかわからん」
「先生!椎華!!」
みんなとやや和やかに話していたら篤史が飛び込んできた。加減なく私に飛び付
いてくるから私はよろめいた。隼人さんが篤史と私の間に急いで割り込んでくる
。隼人さんは何故か私が人と接触するのに過保護なのである。
「どうしたんだい篤史」
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