第1話

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「ああ、えっと、その」 私から篤史を離したので隼人さんは近距離で屈みこんで篤史と見つめ合っている 状態だ。隼人さんは中性的な二枚目顔なので近距離で見つめられて篤史はテンパ ってしまったようだ。 「落ち着いて篤史」 「先生……………」 篤史は落ち着いてきたようで私を見た。そして師範代達三人の顔を見てまた私の 顔を見た。泣きそうなんだか良く分からない妙な顔をしている。 「俺…目ぇつけられた……」 「!!」 「どこのどいつだ!!??白信流の門弟にちょっかい出す奴は!!!」 普段から篤史の兄貴分みたいに仲良くしている相馬が声を荒げる。 「篤史、どういうことだい?」 一人だけ冷静な真一郎さんが聞く。 「天然理心流の」 「天然理心流……?あぁ、試衛館のとこか」 「あそこはいい人ばかりだと思っていたんだけどねぇ」 すると篤史は慌てたように言い直す。 「えっと……試衛館の人に勧誘されたんだ」 「勧誘?」 「うん……今日椎華に隼人さんが椎華探してた、て伝えた後に町をぶらぶらして たら乱闘騒ぎに出くわして、それを止めていたらそのに勧誘されたんだ「ウチに こないか」って」 「見る目があるな……ってかそういう話ならそうと言えよ。てっきり因縁つけら れたかと勘違いしたじゃねえか」 隼人さんは真面目な顔になって聞いた。 「でそれ誰に言われたの?」 「近藤勇、さん、に………」 なるほど篤史が慌てるのも無理ない。近藤さんは向こう方の当主…つまりこちら の隼人さん的地位の人だ。先代――雑賀原流南を表す言葉は<絶対>だ。確かに養 女である私にとって絶対的であったのは言うまでもなく、隼人さんに真一郎さん 、相馬、次郎さんそして弟子達全員にとっても流南は絶対だった。流南には逆ら わない、流南の言葉に従う、彼を優先させる。彼が言い出したことではない。そ ういうところが絶対なのだ。 しかし天然理心流とは。我が白信流ほど有名でないにしろあそこには光る才能を 持つものがいる。同じ立場として早技「三段突き」で有名な内弟子の沖田総司と はつぬづね私は手合わせしたいと思っていた。まぁ、私の存在を知る者は白信流 の師弟だけなので彼とは顔を合わせたことも顔を見たことはないのだが。 「しっかし篤史、お前何して乱闘止めたんだよ?……近藤さんに気に入られるなん て」 「ただ近くにあった下駄を使って止めただけですよ…」 「下駄!?」 「それは篤史らしい。で、何人相手したんだ?」
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