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「たったの八人程度ですよ」
篤史にはごく普通のことでも十五歳程度の少年に止められた大人達や周りの人々
は驚いたことだろう。篤史は道場でも一、二を争う才能の持ち主である。しかし
この場合、才能ではなく奇才と言ったほうがいいだろう。彼は比喩でなく何でで
も戦えるのだ。先程の下駄もしかり、得物が雑巾だろうが湯飲みだろうが剣並み
に戦いの道具として使ってしまうのだ。同じ才能でも鬼才――つまり相手を倒す
ことだけに集中してしまう残酷な私の才能――とは大違いだ。
*22日
それからしばらくして私と篤史は隼人さん達に内緒でこっそり試衛館に行ってみ
た。私は買い物や使い以外に、つまり隼人さんの頼み以外に家から出ないので内
心後ろめたかった。篤史は他に人がいないのか土下座までして私に頼んできたの
で断れなかったけど。まぁ、没落したとはいえ武士の一人息子に頭を下げられて
は誰だって断れないだろう。相馬が土下座しても断るのはしょうがないが。
しかし今の時代、武士にぶつかっただけでも切られることもある中で篤史が簡単
に頭を私ごとき――今は雑賀原の娘でも元はどこの馬の骨ともしれない奴――に
下げていいのだろうか。そもそも女は男よりも下の者である。私が篤史を本気で
心配していたら当の本人が声をかけてきた。
「椎華、何考えているんだ?それよりもう行こうぜ、門弟達が出たぞ」
「あぁ、うん。分かった」
私達は今の今まで試衛館から門弟達が出てくるのを軒裏から待っていたのである
。
「御免!」
篤史が雄々しく言って道場内に入っていく。私は篤史のようにとくに用事はない
しあまり隼人さんに内緒で行動するのも悪いかと思い外で待っていようとしたら
篤史に引っ張られた。
道場内は今さっき稽古が終わったらしく、熱気が残る床の上に数人の師範代や内
弟子達がいた。そのうちの一人に私の視線はいく。たいして二枚目でも不細工で
もないが目を引く顔をしている。部分部分が精巧な竹細工のようで目は濁りのな
いまっさらな陰を映している。私は何故か戦慄した。隼人さんや真一郎さんのよ
うに絶世の美男子というわけでもないのにどうしてそんなにも儚く強く清く見え
るのだろうか。
「近藤さん、こんにちは」
篤史はたいしてその人に気に止めていないようだ。普通に近藤勇なる人に声をか
けた。近藤さんは穏やかな雰囲気をまとった漢だった。
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