第1話

9/13

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
た。篤史は地面に飛び付きそうになる。 「しかし、椎と不用意な接触は他人だろうが知り合いだろうが控えてほしい」 「えー!?」 「椎華…椎が世に出たら、隼人のそれは今まで以上にひどくなりそうだな」 「ふふ…隼人さんの愛妹ですし」 「よし!!そうと決まったら明日から定時に道場へ行こうぜ!!」 これは相馬。 「え…?でもみんなが道場使ってるときは使っちゃ駄目なんじゃ…」私が今まで通 りの感覚でいうと、 「何馬鹿なこと言ってんだよ。今日からお前は雑賀原椎、隼人の実の弟だろ?」 私は道場でみんなと一緒に――今までのように一人で練習してみんなが帰った後 、道場で稽古するのでなく――やれることができてすごく楽しみになった。 そして翌日。 「今日から皆さんと一緒に稽古をすることになった雑賀原椎です。よろしくお願 いします」 私が挨拶すると門弟の人が騒ついた。 「隼人師匠の弟だって!」 「あいついつも一人、外で練習してたよな…」 「やっぱ強いのかなー」 そんな中、弟子達の中でただ一人、篤史だけが私の側まで走ってきた。 「椎!!稽古一緒にやろうな!」 興奮した彼を見て、そういえば彼と稽古するのは初めてだと気が付いた。練習が 終わり、稽古が始まる。 「おい、新しく入った奴、篤史とやるんだって」 「あの篤史とやるのかよ!?」 「雑賀原と篤史、どっちが勝つんだろ…」 竹刀を構える。普通竹刀は中段あたりに構えるのが一番稽古しやすく初心者向き だ。しかし篤史は上段を自分の構えとしている。対する私は下段。正反対の構え の二人の目が合う。篤史は普段どおり。私は鬼とも呼ばれた目をしているだろう 。闘いの前の静けさ。心地よい緊張。滑る音。舞う風。 そしてつむじ風。 剣が煌めく。 敵の足を突いた刀は弾かれ、相手が嬉々として吠える。敵の爪ごとき竹が私の喉 笛を引き裂こうと迫る。緩慢な動作でそれを避けると同時に私は冷徹な瞳を閉じ 、一歩踏み込む。竹刀が交差する。こうなっては腕力勝負だ。しかし腕力も互角 。細身の体から闘気がほとばしる。対する篤史も流石に眉を寄せ、全体重を前へ とかける。 ピシッ!!! 「「あ」」 篤史も私も夢中になりすぎたようだ。加減をされずに風のように刀のように腕の ように使われた二本の竹刀はものの見事に砕けて折れた。 「あっちゃー!!俺としたことが夢中になりすぎた!!!」 「竹刀………」 遠巻きに見ていた弟子達は完全に引いていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加