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知らなかった。確かに私は中性的で女の格好をすれば女らしく男の格好をすれば男らしくなるがそんな線の細い優男にしか見えないはずなのだ。
「何故雑賀原の当主が君を箱入りにしているか良く分かったよ」
「天然で美形の優男だしな…」
「……」
何故か怒ったかのように黙ってしまった沖田に私はうろたえた。
「椎は、鏡見ないの?」
「見ないよ」
その後私は沖田さんにわざわざ送ってもらって帰ることとなった。
「……今日はすいませんでした、急に押し掛けてしまって」
私が詫びると沖田さんは答えた。
「別にいいんだよ…もうすぐ会えなくなってしまうしね」
「!」
そうだった。試衛館一同も浪士組に加わるのだから篤史同様会えなくなるのだ。篤史のときとは違った思いが駆けた。
――私を置いていかないで。
――俺ともっと闘え。
――私を。
――俺と。
まただ。頭が痛い。自分の中に二人の自分がいる。やめて。どうして。どうして沖田さんといるとこんなにも混乱するの?
「総司……」
「ん?」
今だけは私を見てくれるよね。
今だけは俺に約束してくれるよな。
「帰ってきますよね?」
帰ってきて私に会いに来てくれますよね。
「ライバルとしてもっと強くなって帰ってきますよね」
私も強くなるよ。
お前には負けねぇよ。
だから
「待ってます」
言い切ると沖田さんは苦笑した。初めて私に見せる笑顔は偽りなかった。
「大丈夫です。この前の試合の続きを帰ってきたらしましょう」
その約束が果たされないことも。
舞台が江戸に戻ることも。
彼が帰って来ることも。
なかったのだけれども。
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