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「そんなのに武士の血の者が参加するなんて!!大体、浪士組なんてごろつきが集まるんでしょ??」
私が六歳の頃浦賀に黒船がやってきてから国は荒れている。人手が足りなくて結成されるお触れなどに参加すれのは金目当ての農民や町人ばかりだろう。しかし急に篤史は真面目な顔になって言った。
「先週、実家の親父が倒れた……不治の病で長くは持たない…少しでも金がいる」
「!」
私は手に持っていた菜箸を落としそうになった。最近やたらと稽古を抜け出して日雇いをしていたと思ったらそういうことか。ただ近藤さんのような気の合う人脈を探しているのだと思っていた自分が恥ずかしい。
「…………じゃあ私も行く」
篤史が目を見開いた。そして背を向けると言い切る。
「駄目だ」
「なんで?」
篤史の声が震えている。
「今日は、お前に決別しにきたんだ」
菜箸を落とした。
「…………嘘でしょ?」
「嘘じゃない。今日限りでここにはこない」
「なんで!?」
「俺は誇りがある…武士に生まれた。だからこれ以上、雑賀原とは付き合えねぇ。俺は幕府を、将軍を守るよ。外人なんかに渡さねぇ!!」
「あ…」
そうなのだ。私が六歳のころに黒船が来た後、表立ってはいないが雑賀原の一族は積極的に外国の人と接してきた。隼人さんもそうである。だから他の武士や道場主からは後ろ指を指されていたりもしている。それは生粋の武士である彼には耐え難かったに違いない。
雑賀原の養子である私には祖国である日本にはあまり彼のような感情はない。
「篤史………ごめん」
すると彼は、
「何でお前が謝るんだよ」
と笑って言って私の頭をがしがし撫でた。
「私、そういう、分からないから…」
「いいんだ、お前はそれで、いいんだよ」
諭すように言う篤史は一人だけ大人になったかのようで悔しかった。
「椎華……ご飯は…」
心配になったらしい隼人さんがまた台所にくる。
「隼人師匠…いや、雑賀原さんに言いたいことがあります」
真剣な顔で言う篤史に何か思うところがあるのか隼人さんは促す。
「今日で俺を破門にして下さい」
自分から出るのでなく、出してくれという篤史は最後の最後に甘えたいらしい。佐幕と開国と尊皇と攘夷の意見が違っていても師弟と過ごした時間だけは偽りではない、そう思うと私は篤史との別れは決して悲しいことではないのだと思えた。それに、篤史とはまたすぐ会える気がして、ただ流れに身を任せていたのかも知れない。
次の日。
篤史は本当に道場に来なかった。
真一朗さんが稽古を終えた私にそっと耳打ちをする。
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