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「この後ちょっと、いい?」
私は頷く。底の見えない空が私を覆う。ただ青い空が何故か清々しさを欠けていた。
その後、軽く町を真一朗さんと一緒に歩く。昨日の今日だから耳につく尊皇攘夷と佐幕の声。それと、篤史が言っていたお触れの話。花団子を食べつつも落ち着かなくて私は真一朗が帰るのを送ってから一人あてもなく歩いた。思えばこうして用もなく外を歩くのは始めてである。少し不安になりながらも私はいつのまにかある覚えのある道に足を向かわせていた。
目の前に試衛館が映る。無意識のうちに足を運んでしまったようだ。しかし私には別段用事もない。ただ、沖田さん――総司さんの顔を見たかった。
「あれ?椎、さん??」
「!?」
背後から呼ばれて飛び上がる。声をかけてきたのは何を隠そう沖田総司その人だった。
「そんなところでどうしたんです?」
人が良さそうに訪ねる沖田に私は何も答えない。否、答えられない。
「そうだ、今から試衛館の皆でお八つなんですが一緒にどうですか?」
ごく当たり前に聞く沖田が優しすぎる気がして私は泣きそうになる。しかし笑った。笑いすぎて言葉が途切れ途切れになる。
「し、衛館の人達、は、一緒に菓子を食べるの、ですか?」
大の男達、しかも稽古が終わったばかりの剣士達がそろって団子やらを食べる姿は面白い。
「あれ?おかしいですかね…うちでは当たり前なのですが」
「私のところではしませんね。お結びを出すくらいしか…」
「え!?お結び?誰かが全員分作るのですか?…確か雑賀原には今女手がいないと思っていましたが」
「あぁ、私が作るのですよ」
「そうなのですか。僕は料理をしたことがありませんが貴方は何でもできるのですね」
「そんなことはありませんよ」
私は談笑しつつそのまま道場内にお邪魔させてもらうことにした。すでに垂髪並みに伸びた自分の総髪を気にしながら。
「総司遅かったじゃねぇか…あ?」
土方さんが私達の目の前に出てきて一瞬固まった。私は吹き出しそうになる。この二枚目の人も団子を食べるのだろうか。ものすごく見たい。
「椎さんと近くで会ったのでお誘いしたんです」
沖田が何でもなさそうに言う。土方さんはちらりと私を見るが興味がないのか背中を向けて奥へ行ってしまった。私達も後に着いていく。
「今日は三島屋のみたらし団子です」
試衛館一同丸く座って団子を食べる。私はそういえばさっき真一朗さんと一緒に団子を食べたなぁと考えていた。夕食は少なめにしなくては。
「ん…椎くん…椎くん?」
「あ、はい!」
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