第1話

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体を起こす際、無意識に後ろへのばした手に何かが当たった。昨日人ならざる人が立っていた位置だということに気づく。恐る恐る後ろを見ると一本の長い刀。かなり年代を得てきたのか鞘と柄が汚れ風化している。ぱっと見、七尺にもなろうかという長さのそれは何故か手によく馴染んだ。手に持つと自分の身長くらいあることに実感する。長さなら六尺五寸。戦国より前の、平安や鎌倉の剣かもしれない。もしそうなら国宝ものなのでは、と思うが付近には私以外に誰もいなかった。とくに意味もなく柄に手を添え鞘を滑らす。 しゅっ、 ぶうううん、 空気を切るような音と蜂の羽音のような不思議な音がした。刃は驚くほどに綺麗であった。磨ぎたてのような白銀の煌めきは長い時間を良とせず、今のまま気高く錬成してきたのであろう。 <汝と共にあろう> どこからかまたあの声が聞こえた気がした。もしかしたら昨日の人ならざる人はこの刀だったのかもしれない。さすがに腰に下げるのは気がひけて私は片手で縦に持ち、もう片方の手を添えた。そうして抱き抱えるかのように持つと初めて持ったのにも関わらず愛着と懐かしい気持ちがわいた。こね刀は私の運命なのかもしれない。知り合い達のように名前や型がはっきりしている剣とは違うが私はこれが良い。そう思うとこの剣で何をしたいのかはっきりと感じた。 ――‐‐私はこの剣で沖田さんと一緒に戦いたい。 ――‐‐私はこの剣で沖田さんを守りたい。 私の中の2つの人格がはじめて意見が共存した瞬間だった。 「私はこの国に残ります。だから、隼人さん達と一緒に行けません」 迷いなく私は言えた。はじめて隼人さん達とは関係なく考えて信じた自分の意志から。 朝に帰ってきた私に隼人さん達はあわてたが私がそう言うとどこか穏やかな顔をして私の言葉に耳を傾けてくれた。 「隼人さん達にはものすごく恩があります。でも、それでも、自分の信じた道を行きたいのです」 そしてあっという間に1週間が経った。当日、私は相馬と次郎さんに稽古をしてもらい、午後は久しぶりに真一郎さんと買い物。その際にいろいろあって女ものの綺麗な着物をもらってしまった。私ははじめ断ったけれどこれが最後になるかもしれないと思うと惜しくてもらってしまった。夜は隼人さんととりとめもなく長く話した。いつもと同じ日常なのにみんなその時を精一杯楽しんだ。 「椎華、お前に渡したいものがある」
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