第1話

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「…どうかいたしましたか?」 「どうかしたも何も……君は客人として迎えると先日言ったばかりじゃないか…」 「働かざるものは食うべからず、北斎さんの好意に甘えすぎてはいけないと思うのです」 「……仮にも武士なのだから雑用なぞしなくとも」 「武士だからこそ仁義を通すべきだと思います」 「……慣れないことは大変だろう…無理しなくともいいではないか」 「雑賀原ではお手伝いを雇わず全てわたくしがやっておりました。それに、普段使わない筋肉を鍛えることで鍛練になるのですよ」 そして未だしぶろうとする北斎さんに私はとどめを刺した。 「それに、私北斎さんのためにやれることならば何だって楽しいのです」 「…」 はじめのうちはこんな調子だったが何ヵ月かすると私が館周りの家事雑務をするのは当たり前になっていった。 そうして時間だけが経っていくのだと私は思っていた。 しかし時が経つと同時にこの国が傾くのもしだいに目に見えてきた。 「椎くん、これを出してきておくれ」 表向きには行方不明となった隼人さん達の代わりに北斎さんにはずいぶんお世話になっている。老化により足腰が弱くなった北斎さんの代わりに文書を運ぶのは日課になっている。 傾いたこの国で農民から武士までもがこぞって意見や論を出しあう世の中なのである。徳川将軍家に仕えている柳下がおいそれと開国や攘夷の話をしているのが知れたら不味いので江戸近辺は私が届けている。 文書を一走りして届けたついでに雑賀原の道場に寄る。半年前までは賑やかだった屋敷にもう住む人はいない。天気の良い日は私が日乾しやら掃除なんかをするのだが人の住んでいない家は痛みが早い。流石に一人で住むわけにもいかないので当分このままなのだが。 「……椎さん聞きました?京都の新撰組の話」 馴染みの茶屋に久しぶりに行くと顔見知りが声をかけてきた。道場に通っていた門弟の一人である。 「ええ、まぁ。篤史も今じゃ立派になって」 遠い地にいる親友を思う。そういえば沖田さんはどうしているのだろうか。身体に障りがなければいいのだが。 「壬生の蒼き狼、だなんて」 土方さん以外は似合わない通り名で。私は一人苦笑した。
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