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「おいおい兄さん、どこ見てんだよ」
柄の悪そうな男達。近頃江戸の町中にもこんな奴らが増えてしまった。
「椎!?」
流毅が心配そうに私の袖を掴む。すると男の一人が喜声をあげる。
「おい、優男に上玉がついてるぜ!!」
多分流毅のことだろう。流毅はさっ、と血相を変える。
「な、何!?僕はれっきとした男だ!!」
しかし男達はにやにやと下品な笑みを張りつけて囲む輪を狭めてきた。しかし、
―――しゃらん。
それはたった一閃で終わった。
「流毅さんへの侮辱、聞き捨てなりませんね」
百九十五の刀を私の腕で振るえばその場から動かなくとも男達の髷を切ることも簡単である。
「謝罪を求めます」
蒼白になった彼らを瞬きせずに見てやった。地面に滑稽に落ちた自らの髷に気付いて慌てて逃げようとする。
「逃げることは最大の防御ですが、戦場で背を向けるなんて馬鹿にもほどがありませんか」
瞬時に間を詰めて一番態度の大きかった男を捕らえる。
「……可哀想に」
恐怖のあまり意識を手放してしまった男から腕を放した。彼らはもともと農民だ。土地が無くなってかつ幕府の危機と相次ぐ不幸に弱い侍や町人から金を巻き上げないと生きていけないのだ。国の長が乱れれば国も乱れる。国が乱れれば弱みに付け込まれる。
この国はこのままではいけない。いけないのだと思っていても一人の力ではどうにもならない。
「さ、流毅さん行きましょう」
私は気を取り直して流毅に言った。流毅は目を輝かせて、
「はい!!」
と。彼のような純粋な人達を守るためにも…。
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