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「遠いな」
青空に手を透かして見る。半年前までは当たり前のようにいた仲間が今は誰一人いない。
それに京都。山々で遮られなかったとしても遠すぎる。彼方の地で新撰組として活躍する姿が全く考えられない。
「どうしようもなく遠いよ…」
あれから一人で稽古を続けていたけれども彼らは正に現場にいるのだ。練習は実戦には追い付かない。私は唇を噛んだ。見知らぬ地で強くなっていく仲間が少しばかり憎く思えて。
「…………会いたいよ」
ぽつんと呟いた言葉が信じられなくて私はすぐにその場から去った。
「椎♪」
後ろから声をかけられる。私が振り向こうとすると手で目隠しされた。
「だぁれだ!」
陽気な声と周りの目を気にしない行動。目隠しした手は女のように小さく細くて白い。
「柳下…流毅さん?」
そう彼は私がお世話になっている北斎さんの孫である。私が当ててしまうと彼は残念そうに手を引っ込める。そうして私はようやく彼を向いた。
少女のようにと小さな背丈。伸ばした綺麗な髪はそのまま肩に流して腰まである。紅く膨らんだ唇は妖艶で、唯一男らしく切れ上がった目も彼をさらに遊女のように見せる。私はまだ二回くらいしか会ったことがないが男のような女の自分としてはいくらか親近感を持つ。
「流毅さん、どうしたんですかこんな所で」
「ふふ、椎を見かけたから急いで来てしまったのだ」
彼は訳あって柳下の館には住んでいない。確かこの近くの長屋に部屋を借りているのだ。
「急いで来なくとも私はいなくなりませんよ。もっと自分の体を考えて下さい」
そう、彼は薄幸の美少年なのだ。生まれながらにして不治の病により医者のいる長屋に住んでいる。
「椎が悲しそうだったから………義家族が行方不明で友人は京都に行ったって聞いてるよ」
流毅はあか抜けていて思ったことはすぐ口にする。知り合って二回で目隠しをしてくるのも良く分かる。基本的に友好的なのだ。
「大丈夫ですよ、私は」
「駄目だよ、自分に素直じゃなきゃ。人生損しちゃうよ?」
並みの人よりも損をして生きているはずの彼ぬ言われてしまって私は何も言えなくなってしまった。
その後、私達は柳下の館に行くことにした。今日は医者が一日空けるようで流毅も、もともと北斎さんの所に行く途中だったらしい。
しゃらん、
最近になって腰に下げるようになった刀がすれ違いざまに歩いていた人に当たった。いや、当てられたのだろう。いくら長い刀だろうとほぼ縦に下げているものが地面以外にぶつかるはずがない。
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