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わっ、という歓声と拍手が起こり照れたように笑った片岡さんは、いつの間にか斉藤さんを先頭にした会社の人たちに拉致されて、ボックス席に連れていかれた。
私はあわててスタッフルームに戻り、ミモザの花束を抱きしめた。このサプライズが嬉しくて嬉しくて嬉しくて、他のことは何も考えられなくなっていた。
胸のどきどきが止まらなくて、止まらなくて泣きそうだ。
何か大事なことを考えようとしていた気がするけど、思い出すのは後でいいのかもしれない。
今は、頬があまりにも熱いから。だから何にも考えられない気がする。
どうにか平静を取り戻してカウンターに戻ると、ボックス席の片岡さんたちが見えた。
彼はたぶんミモザの小枝を皆に配ったのだろう。
そのへんの女性は皆ミモザを髪に挿したり手に持ったりしていた。
そしてほとんどの女性は、ビールのグラスを持った片岡さんをうっとりと見つめていた。何せ今日は男性の絶対数が少ない。
『ワタルって段々、日本人じゃなくなっていく気がするわね』
私の横でマルコが可笑しそうに言った。
『うん・・・・・』
本当にそうだ、と私は思っていた。彼はもうこの土地や習慣や人間に馴染み、溶け込みつつある。
それは仕事のことを含め、きっと彼が見えないところで静かに学び、努力しているからだ。
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