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それに比べて、私は。私はどんな努力をしてきたのだろう。
イタリアに、大好きなミラノに受け入れてもらう努力を。何かしてきたのだろうか。それでいて私は勝手にもう、悩んでいる。
そんなことを考えていたら、
「凪ちゃん、ビール追加ね!」
という、すごく明るい斉藤さんの声がした。
まだまだ店は終わらないけど、今日はミモザの日だから女の子は特別だよ、と早めに上がらせてもらえた。
雨はどうにか上がっていて、でも街も石畳もまだたっぷりと濡れていた。
私は片手にミモザの花束を持って、片岡さんと歩いていた。彼はユーロスターをやめて飛行機でローマから帰ってきたのだ、と話してくれた。
「凪ちゃんをびっくりさせようと思って」
と言って、彼はとても嬉しそうに笑った。
「どう?驚いた?」
「驚きました!・・・でも・・・すごく嬉しかった」
後半は花束に唇を埋めて、小さな声で言った。片岡さんは手を伸ばして、私の頭をちょっとだけ、撫でた。
なんだかとても幸せな気分で、ふわふわと私は歩いていた。片岡さんのアパートの前に着いた時、いつものように通り過ぎようとしたら、彼はふいに立ち止まった。
「凪ちゃん・・・今日はちょっとだけ寄ってくれないかな?」
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