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「これ」
と手のひらに渡されたのは、小さな銀色の鍵だった。
「この部屋の合鍵。時々来て、風を入れてくれないかな。郵便も止めてないし。・・・・こんなこと、凪ちゃんにしか頼めないからね」
え?鍵?合鍵?この部屋の鍵?と思って大きく息を飲んだら、涙が溢れてきた。
このひと、ホントにいなくなるの?今の私の生活から?片岡さんに・・・・会えなくなる・・・・!
合鍵をもらう、という嬉しさと、会えなくなる、という悲しさはどっちが重かったんだろう。たぶんその時の私の心は、目の前の悲しさでいっぱいになっていた。
笑って、はいって言わなくちゃ。と思っていた。早く、はいって言わなくちゃ。でも言えない。言えなくて。悲しくて。
胸の中から熱い何かが湧き上がってくる。それを吐き出してはいけない、と思っていた。
片岡さんは動けなくなった私の手からそっと花束を取って、テーブルに置いた。
片岡さんの手がゆっくりと肩に触れて、そのまま彼の胸の中に抱かれたら、やっぱり何も言えなくて子供のように泣いてしまった。
ごめんなさい、片岡さん。泣いてしまって。
彼はぎゅっと力を込めて、私を抱きしめていた。凪・・・・と私を呼ぶ彼の、せつない声がした。
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