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《戦慄》
男は走り出していた行き交う車を掻い潜り女子校の方へと向かっていた。その時すでに4人目5人目の飛び降りが殆ど同時に始まっていた。
「きゃーーーーーーー。」「きゃーーーーーーーーーーーー。」
「ドン。」「ドン。」
と立て続けに、しかも5人とも頭から飛び降りている。地上のコンクリートは完全に彼女達の頭蓋骨を破砕していた。
「おおーーーーーーーい!」「やめろーーーーー!」
男は叫びながら走っていた。
男が学校にたどり着いた時6人目の飛び降りが始まっていた。
「やめろーーーーーー。」
男の声は虚しくも彼女たちの耳には届いていないようだった。
「きゃーーーーーーーーーーー。」
6人目7人目と飛び降りが続いた。
割れた頭蓋骨の流血でコンクリートは真っ赤に染まっていった。その時には通行人もコーヒーショップの客達も状況を把握したのだろう。凍結状態から騒然とした状態に変わっていた。
男はしきりに叫んだ。男に感化された数人の通行人も男と同様に呼びかけていた。一人目の飛び降りから1分は経過していただろうか。しかし8人目が飛び降り。女子校の教師も3人程駆けつけて。
「馬鹿な事するなーーー。」
と叫んでいた。そして8人目が飛び降り少し間をおいて9人目がとびおりた。9人目は
「きゃーーーーーー。」
と叫び、そしてくるくると回転しながら頭から落下してきた。
男の足元は真っ赤に染まっていた。9人目が最後だった。もう飛び降りて来ないのを確認したのは。屋上に上がった教師達の姿を見た時だった。全身の震えを押さえつつ、僅かながらも後ずさりしながら血のエリアから逃れようとしていた。
眼前で人が死ぬのを見るのは。自分の父親が死ぬとき以来だった。
それは衰弱しきった人間が自然と土へと帰って逝くどうしようも無い死だと認識できた。
しかし今日見た死は、壮絶であり、無理矢理であり、凄惨であり、諦めきれないものだった。
「何故なんだ。」その言葉が何度も頭の中でリピートしていた。
そのせいか止めど無く涙が溢れていた。身内でも無い者の死であるが余りに衝撃的な出来事だった。そして、それは男にとって悲しく、そして恐かったのだろう。
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